top of page

月逃奇譚

「家を継ぎ、かぐや姫となる」
生まれたときからずっと瑠奈にまとわりつく呪いである。
姫になるための勉強、姫としての作法を叩き込まれる日々、物心がついてから瑠奈の記憶は、ただそれだけだった。
父親は生まれてきた子供が男だと知った途端、姿を消してしまった。
今はかぐや姫である母親が月を統治し、安寧と平和をもたらすべく、寝る間を惜しんで公務に勤しんでいる。

自分が生まれた事によって瓦解した両親の関係、会う度母親から向けられる冷たい視線。
「自分さえ生まれていなければ」という強い悔恨の情は、いつしか希死念慮へと姿を変え、瑠奈の心を蝕んだ。
これから背負わなくてはならない月の未来は、齢11の愛を知らない瑠奈には重すぎた。

ついに明日、母からかぐや姫を継ぐ儀式が執り行われる。
自分のために仕立て上げられた礼服に身を包み、姫として月の未来を導くという、心にも無い宣言をさせられるだけのつまらない式典。
つまり、数十年もの間身柄を拘束され、この星のために生を捧げる契約の場である。

消灯時間を過ぎても寝付けず、窓から屋根の上へ登る。夜空に輝く星々を眺め、広大な宇宙に思いを馳せる。瑠奈の唯一の娯楽である。
一際目を惹く青い天体、輝く星々の並びを物に例える「星座」という文化があるらしいその星へ、無数の流れ星が飛んでいくのが見える。
幻想的な、明日以降二度と見れなくなる風景である。

月のためだけに生きる人生を歩むなら、命の危険を冒してでもこの場から逃げた方が有意義なのではないか。
今までに何度も思い描き、諦めてきた野望を現実にできる最後の機会が今こうして自分のもとにやってきたのである。
自分を愛さなかったこの星のことはもうどうだっていい、最悪宇宙を揺蕩う藻屑となるのも悪くない。

立ち上がり、ゆっくりと流星群に向けて手を伸ばす。
不思議と身体は軽く、気づけば高く飛び上がり、流星を掴んでいた。
その瞬間、今まで体験したことのない速度で宇宙を流れ行く。
振り返れば、月の都はもう見えないほど小さくなっていた。真っ直ぐ向かうは何度も天に見上げた青い星、地球。
瑠奈は晴れやかに、第二の生への一歩を踏みしめた。



目を覚ますと、緑色の細長い筒状の植物に囲まれ倒れていた。

「あ、起きた! 君、大丈夫?」
「随分高いところから落ちてきたみたいだけど……」

気づけば火傷や擦り傷を負いながらも、どうやら生きて地球に降り立つことが出来たらしい。
そして、目の前に立つのは月の住人とよく似た形の、しかし、頭の上の耳がない生き物。

後に学友となる双子の少年達に支えられて立ち上がる。
感じたことのない強い重力によろめきながら、この星で生きていく決意と共に口を開いた。

「はじめまして。ぼくの名前は月ノ宮瑠奈、月から来ました」

 

登場キャラクター:弦音ステラ・鈴音ルオン・鈴音ネオン
​背景:nyaruru
著:リオン

  • Facebook
  • Twitter
  • Instagram
bottom of page